矢筈岳右岸壁下部壁 大いなる空白(3P 5.11a 60m)





「大いなる空白」の執行さん(橋井さん撮影)


「大いなる空白」トポ(執行さん・三沢さん作成。『鹿川通信』No.84, 2006.1.1より転載)




 最近ではハイカーに人気の矢筈岳水平道.トンネルを越え徒歩で南下すると,上部に右岸壁上部壁マスターズルーフより大きな張り出しが見える.このルーフの弱点であるクラックのチョックストーン部分を水平道から3ピッチで抜ける.このルートは1984年に宮川章(故人)・兵藤勝・陳内安幸氏により偵察されており,この年は白岩孝行・内藤直也氏らにより岩と雪111号に発表された矢筈岳右岸壁上部壁開拓の1年程前である.2005年10月9日完成.ルート名を大いなる空白とした.見た目より手頃なナチュラルプロテクション(NP)主体のルートで,アプローチも近い.


アプローチ

 比叡山三峰のトンネルを500m程北上すると,左脇に鋭角ターンが必要なコンクリート舗装の農道がある.大型車では困難が予想されるこの農道を廃屋まで下り,車三台分の空き地に車を止める.廃屋脇から杉林を抜け沢に降り,沢沿いに100m程北上すると,三角錐の形状のボルダーがある.ここから対岸の杉林の斜面を水平道へ上がる.水平道を南下すると,数メートルのトンネルと20m程度のトンネルがあり,更に100m程進むと頭上に大きなルーフが見えてくる.このルーフのクラック直下のコーナー部分のフェイスから取り付く.ここまでの所要時間は車から降りて約20分.取り付きからはハンガーボルトが三本確認でき,更に3P目の中間部分まで確認できる.下降は3P目終了点の立木より懸垂下降.

トンネルを抜けるまでのアプローチ 





使用ギア

キャメロット#0.5〜4(#0.75〜2は2セット)


1P目(5.11a 30m B4 NP)

 コーナー部分のフェイスから始まり,小ルーフのコーナークラックを越えるとハンドサイズの易しいクラックとなる.終了点は立木.2005年6月5日,下部コーナー部分のフェイスに陳内氏がハンガーボルトを設置.この部分が核心でグレードを5.11a(B4)とした.10m登るとレイバックで始まる小ルーフ越えのコーナークラックとなり,この部分のグレードは5.10b(NP).6月5日,橋井参二氏が初登.10月8日終了点の立木下部にバックアップ用ハンガーボルトを1本設置.

2P目(5.10b 10m NP)

 ルーフ直下の水平クラックを左へトラバースする.フェイスの要素が強い.終了点はハンガーボルト2本.スタンスの下には綱の瀬川が見える.5.10bというグレードは,初登者曰く,あのロケーションで先の全く見えない状態でトラバースに入ることを加味したとのこと.足が震えなければグレード以下に感じるのであろうか.6月5日,橋井・山口・荒巻・執行で偵察を行い,宮川氏らにより21年前に設置された朽ちたRCCボルトを確認.10月8日ハンガーボルトに打ち換え終了点とした.10月9日,荒巻悦子氏が初登.

3P目(5.9 20m NP)

 チムニーから始まるルーフクラックのチョックストーンを越え,クラック沿いにブッシュ帯へ入る.終了点は立木.水平道から見るとチョックストーン越えは困難そうに見えるが,登ってみるとハンドの効きもよく意外に易しい.往年のクライマーにはグレード以下に感じられることと思う.陳内氏によると未登とのことであるが,真相は如何に.ブッシュ帯の方が長いのが玉に瑕. 10月9日,執行が初登(初見).

 なお,ボルト設置に関して,矢筈岳右岸壁下部壁及び上部壁は金属の腐食が激しいので,ステンレス等の腐食に強い材質を選択する方が好ましい.

(執行信介氏の文章より)




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