Part1 蓮花夕照連山偵察


8月26日(土)
 康定(カンディン)から車で山の方へ入り、最後の村、王母村のはずれへ。標高は2,800mほど。そこで荷物を馬に積み替え、ベースを目指す。好天の下、お昼少し前に登り始める。一頭、空いた馬がいたので、大内和子さんが跨る。ベースで昼ご飯だ、などど気楽に考えながら、ヒイラギブナの灌木の道を登っていったが、なかなかたどり着かない。それもそのはずで、後で測ってみると、ベース地は1,300m上の、標高4,100mにも達した。メンバーは空腹で足が上がらず、いわゆる「シャリバテ」状態。「飯はまだか〜」「ベースはどこだ〜」と不満の声にも力がない。上の方は灌木も尽き、岩と草の急登に変わる。空腹と高度が重なって、つらい登りだった。馬たちも、傾斜がきつい上に、岩で蹄が滑るため、足取りが覚束ないようだった。そんな中、少しだけ馬に乗ってみたが、馬には気の毒ながら、これは大変楽だった。しかし99%は歩きで、数歩歩いては立ち止まって息を整えていると、岩山の肩の辺りのコル状に達する。
 そこはちょっとした峠になっていて、目を上げると、蓮花夕照連山の尖った岩峰が天を指している。二十メートルほどの眼下には、なだらかな高原が広がり、馬や馬方の人たちは既に荷物を下ろしてくつろいでいた。素晴らしいベース地だ。雪豹体育探検公司の準備してくれたテントは、二人用の新品だった。しかも、なんと一人一張りという贅沢さ。早速、平らな所を探して、順次張り始めた。最後にじゃんけんで、一番平らで寝心地のいいテントを決めた。炊事テントは、高原に点在するカルカの石組みの一つをタープで被って作った。
 この日はさすがに頭痛などの高度障害が出た。メンバーはほとんど、多かれ少なかれ高度障害に罹ったが、和子さんだけはけろっとしていた。後で入山してきた深田さんも、共にこの高さの高所にはお強いようで、うらやましいかぎりだった。

王母村のはずれで、馬に荷物を移す
ベースに向かって登山開始!
初めは穏やかな流れに沿って道を行く
登りが始まる。和子さんの馬上の勇姿
美しい花々を愛でながら登っていく
長友もちょっと跨らせていただく
天気はよく、自然が美しい
順調に高度を稼ぐ(初めのうちは・・・)
ベースは左手のコルのあたりを越えたところ
このへんからシャリバテと高度に足が重くなる
急斜面で、馬には気の毒ながら、ちょっと跨らせていただく
コルを越えると、眼下にベース地が!


岩峰とベースキャンプ


カルカの石組みを使った炊事テント
奥にも別の峰が



8月27日(日)
 高度障害でよく眠れないまま、今日は岩峰の偵察。大内さん、和子さん、溝渕さん、須貝くん、長友で、とても気持ちのよい高原の草の上を、ゆっくり歩く。目の前の岩峰は、少し脆いところもありそうだったが、数ピッチで登れそうだった。高原に沿って岩峰を回り込んでいくと、裾野には湿地や池があった。側面の方は更に登りやすそうで、「次回と言わず、今日中にも登ってしまおうか」などと冗談も出てきた。しかしギア類は山の麓にデポしているため、偵察に終始した。途中、透き通った水晶などが落ちていたり、珍しい花々が咲いていたりで、散策は飽きることがなかった。大内さん、溝渕さんは更に緩やかな登りを辿って岩峰を回り込んで偵察を続けたが、和子さん、須貝くん、長友は適当は所で休んでから引き返す事にした。須貝はミニヤ・コンカを見に、向かいの岩峰のコルに向かった。和子さんと長友は、あまりの気持ちよさにお昼寝に。開けた草原の向こうにはコンカ山群の一部が望め、涼風と暖かな陽射しに包まれ、何も言うことはなっかた。何度か目覚めては再び寝入り、気づくとミニヤ・コンカを見てきた須貝くんも近くで寝ていた。しかし彼は帽子を持ってきていなかったため、ひどい日焼けをしてしまった。後々、鼻の頭を中心に、顔の皮が剥げまくり、会う人ごとに指さされる程の状態になっていた。長友は昼寝のおかげで高度障害が少し回復した。
 それから昼寝組はベースに戻った。ベースが近づくと、峠にどこかで見たような人影が。柏瀬、深田両氏が入山してきたのだ。「お久しぶりです」「いや、どうもどうも。いや〜、ずっと馬に乗っていたから楽だった」元気な笑顔がこぼれた。深田さんは乗馬が趣味で、「こんな高さまで馬で来られただけでも来た甲斐がありました。ここでエンデュランスができるなんて!」と喜んでいた。
 そのうちに大内、溝渕両氏も戻り、ベースは更に活気づいた。夕食はカルカの石組みの中で。山行中、食事はずっと鐘(ショウ)さんが作ってくださっていたが、彼は四姑娘峰などに日本人を案内した経験が豊富なため、私たちの口にとてもよく合った料理を出してくれた。明日は下山だ。
幾つかのカルカの石組みが点在する高原を行く
この高原は、周囲を岩峰に囲まれている


私たちが今後の目標に考えている岩峰。ルートを検討する


高原をかなり進んで振り返ると、その岩峰のスラブの裾には池もあって、いい景色だ
目標の岩峰を回り込んだところ。こちらからだと下部は易しそうだ
さらに高原を進む。和子さん、長友、須貝くんはこのへんでお昼寝をした
周囲には美しい花々が
大内さん、溝渕さんは、元気に偵察に登っていった
コルを目指す須貝くん


上の方から振り返る。ガスがかかっている辺りがベースキャンプ。遠く、ミニヤ・コンカ山群の一部が


可憐な花々
柏瀬さん、深田さんと合流し、お茶でくつろぐ
夕食は、カルカの石組みの中で
テントはおろしたてを一人一張り。快適だった



一つ前のページに戻る |

Interlude1 へ進む |

2006 中国クライミング 目次へ戻る|