ピンプン溝(Bi peng gou)・5,513m無名峰開拓


ダイジェスト


2007年8月13日
 朝、ラーメンライスで腹を充たす。ガスの節約のため、たき火にヤカンをかけ、火を絶やさないようにする。こうして待っているだけでも仕方がないので、コックの清さんに必要な物のリストを作ってもらい、私たちの手持ちの元をかき集めて、大内、妹尾でピンプン溝入り口まで下りて、買い出しに行くことになった。すると、ポーターの人々も一緒に行くと言う。残った私たちは昼までたき火を絶やさないように薪を集めたりして過ごした。
 昼過ぎに、買い出し隊の妹尾が戻ってきた。「来ましたよ」。しばらく待っていると、後発隊の面々が到着してきた。これで何とかなる! 何よりもみんな無事でよかった。何でも、渋滞で昨夜はピンプン溝からだいぶ下の民宿に泊まっていたという。大内さんも戻り、日本語の堪能な姜さんもやってきた。
 後発隊のテントや、メンバー全員がゆったり入る食事用のテントも設営され、豊かな昼食を食べると、さっそくクライミング活動再開だ。
 大内尚樹、小川淳司、妹尾佳明、長友敬一、橋井参二は、昨年4ピッチまでルートを引いた、ピンプン溝左岸の燕子涯(yan zi ai)の上に聳える、5,513m無名峰を目指す。YCCの佐野耕司、船山和志、川野健二、朝岡隆は、これも昨年からの課題の、右岸にそそり立つ将軍峰(Jiang Jun Feng:5260m)へ。大内和子、平山敏夫はベースで待機。
 将軍峰チームは明日からということで、今日は偵察。5,513m無名峰チームは、今日中にアタックベースキャンプを設営すべく、必要な荷物をまとめて、15:00にベースを発つ。燕子涯は岩だらけで一見登れそうにないが、昨年、岩の間を縫って、草付き沿いに歩いて登れるルートを見つけていた。途中、ポーターの人たちが、「我々にはヘッドランプがない。今から登ると帰りが暗くて下りられない」などと言うので、「上には六時には着く。それから下りても十分明るい」となだめたり、「頭が痛い。ここから帰る」と荷物を置いて帰りそうなそぶりをする人もいたので、とにかく先頭に立ってどんどん行くことにした。18:00ちょうどに、4580mの、モレーンの上に着いた。水が流れて、テントの張れる平地が何カ所かあった。昨年の場所とはちょっと違うかな、という気もしたが、約束の時間だし、条件も問題ないので、テントを張って荷物を全てぶち込んで下りた(翌日、昨年の幕営地の小海子から一段下の場所だったことが判明した)。
 小川、橋井も高度順応を兼ねて登っていたが、どうも調子がよくないようだった。妹尾、長友、ポーターをしてくれている二名がサポートして、ゆっくり下った。
 後発隊が成都に着いた夜は、橋井の誕生日を祝って、盛大なケーキが振る舞われたそうだが、この日の夜は、夕食後、小川の誕生日を祝って、大きなたき火を作り、日本のメンバーと中国のスタッフ、ポーターの方々のメッセージを書いたカードが手渡される予定だった。しかし、小川はテントにこもりっきりで、橋井も出てこない。YCCの医療チームが手当をしたところ、二人とも、SPO2(血中酸素濃度)の値が60前半しかない。彼らを気に掛けつつ、たき火の方は、白酎と日中歌合戦で盛り上がった。その後、割と症状の重い小川には医療チームが添い寝し、橋井は私が横で寝て、何かあったら医療チームに報告することにした。



橋井さんの誕生日お祝い(撮影:小川淳司)。
削麺(撮影:小川淳司)。




市場で買い出し(撮影:小川淳司)。
ピンプン溝隊の食事風景(撮影:小川淳司)。




燕子岩からアタックベースへのアプローチ 一番奥に5,513m無名峰がのぞいている




5,513m無名峰が燕子涯の上にのぞく。
アタックベースキャンプへの荷揚げ。




燕子涯の上もまた、お花畑。
夜のたき火と宴。




日中歌合戦は延々と続いた(撮影:大内尚樹)。



2007年8月14日
 小川、橋井、朝岡は、高度順応のため、一旦ピンプン溝入り口まで下り、更に車で降りることに。
 将軍峰を狙うYCCチームは昨年とはルートを変え、ポーターの方々とベースを作るため荷揚げに向かった。
 大内、妹尾、長友は燕子涯(yan zi ai)を登り、5,513m無名峰のアタックベースへ。昼頃アタックベースに着くと、長友、妹尾で昨年の4ピッチを登り返した。更に1ピッチのばし、ロープを2本フィックスし、ギアや水をデポして下る。アタックベースに戻ると、大内のご馳走が待っていた。プロパンガスや圧力鍋、中華鍋も運び挙げているので、腕の奮いようが違っていた。



さあ、アタックベースに再度出発!





アタックに出発前の記念写真(撮影:大内尚樹)。





途中、女王峰(右)と将軍峰(左)が。





将軍峰(右)から延びる谷。





燕子涯上部にも、ハングのある立派な壁が。





この壁だけでもここに登に来る価値は十分にあると思われる。





5,513m無名峰とアタックベースキャンプ。





5,513m無名峰。





小海子と、ピンプン溝右岸の峰々。





5,513m無名峰の右手に広がる氷河。





5ピッチまでのルート。



2007年8月15日
 天候を見つつ、9:30、長友、妹尾でアタックベースを出発。大内は、後から来る小川、橋井を待つことに。どちらか一方しか来られなかった場合には、パートナーが必要にもなるための配慮だった。三人で、一段上の小海子まで登った。そこで写真を撮ったりして、長友、妹尾は岩に、大内はアタックベースに。
 岩の取り付きまでは、約二時間、取り付きの標高は4,900m程。フィックス部分では、二日分のビバークの荷揚げで時間をとった。その後、5ピッチ目の最高到達点から更にもう1ピッチのばし、霰に会う。7ピッチ目の出だしあたり、5080m付近で、ビバークに適した岩棚を見つけ、ビバーク。霰は雨に変わり、寒くてほとんど眠られなかった。

2007年8月16日
 起きるとガスの中だった。視界が効くまでツエルトの中でまったりしていたが、雨は降っていなかったので、ビバークサイトから凹角状を30mほど左上する。突き当たりでピッチを切り、右上するゆるくて幅の広い、浮き石がたっぷり詰まったフレークを登り、左に折り返す。ここから、右にも左にも行けそうだ、真上はハングだなぁ、などと思っていると、下から大内のコールが聞こえてきた。13:00、5,120m地点。そこで下降することに。しかし、8ピッチ目の下降では、回収時にロープがクラックに引っかかり、残置してきた。
 16:00過ぎ、私たちが下降するのを待って、大内、小川、橋井で入れ替わりに1ビバーク体制で取り付いた(後で聞いたら、ツエルトを忘れていったとのこと。着の身着のままで、一晩、5ピッチ目終了点あたりで震えていたらしい。雨でなくてなによりだったが)。長友、妹尾はアタックベースに下って、つけラーメンや野菜炒め、スープなどで息を吹き返す。

2007年8月17日
 大内、小川、橋井の三人は、好天の中、11ピッチまで延ばして下降。アタックベースからも少し彼らの登っている姿が見えた。長友、妹尾は、今日撤収のつもりで上がってきたポーターの人たちと、撤収は明日だという交渉。とりあえず、最低必要な物を残し、プロパンガスなどを下ろしてもらう。
 夕方、三人を迎えに取り付きまで上がり、荷物を分けてアタックベースに戻る。
 なお、YCCのメンバーは、新しいルートを8ピッチ延ばし、悪天のためベースに戻ったらしい。





ルート






トポ


中国横断山脈チョンライ山系・ピンプン溝(Bi peng gou)・5,513m無名峰
11ピッチまで試登  2007年8月17日 
チームメンバー:大内尚樹、大内和子、小川淳司、妹尾佳明、長友敬一、橋井参二、平山敏夫

1P 25m III 緩傾斜クラック(小川リード:2006年)
2P 30m IV トラバース〜クラック(大内:2006年)
3P 30m 5.9 緩いスラブ〜クラック〜階段状(長友:2006年)
4P 35m 5.10a フェース〜上昇バンド〜小チムニー(山崎:2006年)
5P 50m V ジェードル〜トラバース〜凹角(長友)
6P 50m 5.8 トラバース〜左上チムニー状凹角(長友)
7P 25m 5.8 左上チムニー状凹角(長友)
8P 20m 5.8 左上チムニー状凹角(長友)
9P 30m A0・5.9 斜上フレーク〜クラック(長友)
10P 20m 5.7 緩傾斜の左上トラバース(橋井)
11P 45m 5.10a  クラック(大内)




アタックベースにて(撮影:妹尾佳明)。
1P目(撮影:妹尾佳明)。




2P目(撮影:妹尾佳明)。





2P目(撮影:妹尾佳明)。
3P目のユマーリング(撮影:妹尾佳明)。




4P目の核心の出だし(撮影:妹尾佳明)。





7P目終了点のビバークサイトにて(撮影:妹尾佳明)。
8P目の出だし(撮影:妹尾佳明)。




9P目をリードする長友敬一(撮影:妹尾佳明)。





取り付き下降後、大内チームと交代(撮影:妹尾佳明)。
左から、大内、小川、橋井(撮影:妹尾佳明)。




4P目終了点手前の大内(撮影:小川淳司)。
5P目の橋井(撮影:小川淳司)。




6P目出だしの大内(撮影:小川淳司)。
四姑娘山遠望(撮影:小川淳司)。




雲海が広がる(撮影:小川淳司)。
四姑娘山(撮影:小川淳司)。




6P目出だし(撮影:小川淳司)。
眼下には氷河が(撮影:小川淳司)。




8P目出だしを行く橋井(撮影:小川淳司)。
氷河と大内隊長(撮影:小川淳司)。




氷河と橋井登攀リーダー(撮影:小川淳司)。
8P目終了点(撮影:小川淳司)。




8P目終了点に上がり込む大内(撮影:小川淳司)。
9P目出だしの大内(撮影:小川淳司)。




9P目終了点手前の橋井(撮影:小川淳司)。
10P目、新たなピッチを拓く橋井(撮影:小川淳司)。




10P目出だしの橋井(撮影:小川淳司)。
10P目はピナクルの上で終了。フォローする大内(撮影:小川淳司)。




10P目終了点(撮影:小川淳司)。
11P目をリード(撮影:小川淳司)。




11P目を開拓する大内(撮影:小川淳司)。





11P目が今回の最高到達点となった(撮影:小川淳司)。





11P目終了点(撮影:小川淳司)。





9P目の下降(撮影:小川淳司)。
氷河に聳える峰(撮影:小川淳司)。




氷河の末端(撮影:小川淳司)。
7P目の下降(撮影:小川淳司)。




6P目の下降(撮影:小川淳司)。
5P目の下降(撮影:小川淳司)。




2P目の下降(撮影:小川淳司)。
アタックベースキャンプにて(撮影:小川淳司)。


2007年8月18日
 先に帰国する小川、橋井を6:00に妹尾がサポートしてアタックベースを下る。大内、長友は撤収のためポーター待ち。美しい晴れ渡った朝を満喫する。8時前にポーターの人たちが来たので、撤収して下山。ベースに着く頃には、既に帰国組は発っていた。
 その後、私たちもピンプン溝入り口まで2時間のお散歩で下り、ヤクの肉のシシカバブーや美味しいジャガイモなどをビールと共にいただく。これから再び双橋溝に戻るのだが、峠の景色は既に堪能したことと、何より疲れているので、峠を戻るのではなく、チョンライ山系を車で10時間ほどかけて大回りして行くことになった。



素晴らしい早朝の大雲海(撮影:妹尾佳明)。





ピンプン溝右岸の山々
ピンプン溝右岸の山々




中央の峠から、隣の長坪溝へ抜けられる
ピンプン溝入り口の広場に到着




ヤクの肉のシシカバブーは美味!




Interlude

一つ前のページに戻る
ワーグルセイ峰5,300m 初登頂(後半)